CasePrep
「日本に電柱は何本あるか?」「東京のタクシーは何台か?」——こんな問いに、正確なデータなしで答えを出す技術がフェルミ推定(Fermi Estimation)です。物理学者エンリコ・フェルミが、手元の情報だけで核爆発のエネルギーを推計したことが名前の由来です。
ピザで考えてみよう
友だちのパーティーに何枚ピザを注文すればいい? 人数は30人。1人が食べる量は2〜3切れ。1枚は8切れ。30人 × 2.5切れ ÷ 8切れ ≒ 10枚。これがフェルミ推定の本質——「知っていること」を積み重ねて「知らないこと」を導く技術です。
ポイントは「正確な答え」ではなく「合理的な範囲」を素早く出すこと。誤差が2倍以内なら十分に使えます。「だいたい1万台」「10万台はないけど1000台もない」という感覚を持てることが目標です。
練習問題
日本にコンビニは何軒あるか推計してください。
考え方のヒント
フェルミ推定の本質は「知っていることを積み重ねる」ことです。日本の人口1.2億人を徒歩圏の商圏人口2,000〜3,000人/店で割ると4〜6万店の範囲が出ます。実際は約5.7万店なのでこの方法で正しいオーダーが出ます。「正確な答え」より「合理的な導出プロセス」を示すことが目的です。
コンサルタントは毎日「データがない状態で意思決定を支援する」仕事をしています。新市場参入を検討するクライアントに「その市場は何億円規模か?」と聞かれても、調査会社のレポートが手に入るまで待てない場面が多い。フェルミ推定はその場で「10億〜50億円規模」という仮説を立て、議論を前に進める力です。
面接で問われること
実務で使う場面
採用官が見ているポイント
練習問題
面接官から「日本の年間ビール消費量を推計してください」と言われました。どのように答えますか?
考え方のヒント
コンサル面接でフェルミ推定が使われる理由を体現する問いです。まず「成人人口×飲酒率×1人あたり年間消費量」という式を宣言し、前提を声に出しながら計算します。「なぜその数字を使ったか」を説明することで、構造的思考・コミュニケーション力・数字感覚の3つを同時にアピールできます。
フェルミ推定には再現性のある4つのステップがあります。どんな問題でもこの型に当てはめることで、パニックにならずに答えを出せます。
STEP 1:問いの定義(Clarify)
「タクシー台数」とは何を指すか?稼働中?登録台数?地域は全国?東京のみ?曖昧さをゼロにする。面接では必ず確認してから進める。
STEP 2:分解の設計(Structure)
何をかけ合わせれば答えが出るか考える。「需要側(乗客数)から攻めるか、供給側(ドライバー数)から攻めるか」を選択。ストック型かフロー型かを決める。
STEP 3:数字を入れて計算(Calculate)
知っている数字を前提として置き、掛け算・割り算で積み上げる。計算はシンプルに。3.14より3、1.2億より1億でよい。
STEP 4:サニティチェック(Sanity Check)
出た答えを「感覚」と照らし合わせる。「東京に1億台のタクシーがある?それは多すぎる」と気づけるか。別アプローチでも検算する。
練習問題
「東京都内のラーメン屋の数を推計してください」と言われました。STEP 1〜4の手順で考えてみてください。
考え方のヒント
STEP 1で「ラーメン屋」の定義を確認(専門店のみ?)し、STEP 2で需要側(人口×利用率)か供給側(商圏人口÷店舗あたり商圏)かを選択します。STEP 3で数字を入れ(東京1,400万人÷商圏3,000人≒4,700店)、STEP 4でサニティチェック(「ラーメン屋はコンビニの半分程度」など)を行います。4ステップを意識することでパニックにならず答えを出せます。
フェルミ推定の分解には大きく2種類のアプローチがあります。問いに応じて使い分けることが大切です。
スポーツで例えると
ストック型はプールに「今どれだけ水が入っているか」。フロー型は「1分間に何リットル水を入れているか」。タクシー台数はストック型、タクシーの年間売上はフロー型で考えます。
練習問題
「日本の美容院の数」と「日本で1日に行われるヘアカットの回数」を推計してください。どちらをどのタイプで解きますか?
考え方のヒント
「美容院の数」はストック型(今存在する数)で解きます。日本の人口1.2億人のうち月1回利用する人を推計し、1店舗の月間処理能力で割ります。「1日のヘアカット回数」はフロー型(一定期間の流量)で解き、利用者数×利用頻度から日次の回数を求めます。問いの性質を見極めてアプローチを選ぶことが、効率的な推計の第一歩です。
フェルミ推定は「知っている数字を組み合わせる」技術です。以下の数字を頭に入れておくだけで、推計の質が大きく変わります。丸めた数字で十分です。
| カテゴリ | 項目 | 数値 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 日本の人口 | 総人口 | 約1.2億人 | 1億2千万人。計算では1.2億で |
| 日本の人口 | 東京都人口 | 約1,400万人 | 山手線内は約90万人 |
| 日本の人口 | 世帯数(全国) | 約5,500万世帯 | 1世帯あたり平均2.2人 |
| 日本の人口 | 世帯数(東京) | 約700万世帯 | 単身世帯が多い |
| 経済規模 | 平均年収 | 約450万円 | 中央値は約400万円 |
| 経済規模 | 日本のGDP | 約550兆円 | 1人あたり約460万円 |
| 経済規模 | 国内消費支出(年) | 約300兆円 | GDPの約55% |
| 日常数字 | 1日の通勤者数(東京) | 約350万人 | 鉄道利用ベース |
| 日常数字 | 平均寿命 | 男83歳・女88歳 | 現役世代は20〜65歳 = 45年 |
| 日常数字 | 就業者数 | 約6,700万人 | 労働力人口は6,900万人 |
| 面積・密度 | 日本の面積 | 約38万km² | 東京都は2,200km² |
| 面積・密度 | 人口密度(東京) | 約6,000人/km² | 山手線内は約1.5万人/km² |
練習問題
「日本の就業者数6,700万人」「平均年収450万円」の2つの数字を組み合わせて、日本の給与総額を概算してください。
考え方のヒント
基本数字を組み合わせる練習です。6,700万人×450万円=約300兆円が給与総額の概算となります。日本のGDP550兆円の約55%に相当し、消費支出300兆円とも整合性が取れます。こうして複数の基準数字を相互検証することで、記憶した数字が「使える知識」になります。
典型的なフェルミ推定問題を、需要側アプローチで解いてみましょう。「全国の登録(稼働)台数」を問われていると定義します。
アプローチの選択
| 計算ステップ | 変数 | 前提・根拠 | 数値 |
|---|---|---|---|
| ① | 対象人口 | 日本の成人人口(15〜75歳) | 約1億人 |
| ② | タクシー利用率 | 月1回以上利用する人は成人の20%と仮定 | 2,000万人/月 |
| ③ | 1人あたり月利用回数 | 利用者は月平均2回乗ると仮定 | 4,000万回/月 |
| ④ | 1日あたり乗車回数(全国) | 4,000万回 ÷ 30日 | 約130万回/日 |
| ⑤ | 1台あたり1日の乗車回数 | 都市部:20回/日、地方:10回/日 → 平均15回/日 | 15回/台/日 |
| ⑥ | 推計台数 | 130万回 ÷ 15回 = 約8.7万台 | 約9万台 |
| 検証 | 実際の数字 | 全国ハイヤー・タクシー台数は約22万台(2023年) | ※稼働率を考慮すると近似 |
誤差の読み方
練習問題
需要側アプローチで「日本のコーヒーチェーン店舗数」を推計してください。
考え方のヒント
需要側から攻めるには「日本の成人人口→コーヒーを週1回以上外で飲む人の割合→1週間の総杯数→1店舗が1日に捌ける杯数→店舗数」という掛け算の式を設計します。各変数に前提を置いて計算し、最後に「スターバックスだけで約1,800店あるので、全チェーン合計で1万〜2万店は妥当」と別の知識でサニティチェックします。
計算が終わったら必ず「これは現実的か?」と自問します。これがサニティチェック(Sanity Check)です。小学校で「答えが負の数になったらおかしい」と確認するのと同じ感覚です。
チェックの方法
よくある失敗パターン
練習問題
推計した結果、「日本の電柱の数は約3,600万本」という答えが出ました。これをどうサニティチェックしますか?
考え方のヒント
サニティチェックでは別の視点から答えを検証します。例えば「日本の電線総延長を電柱間隔(約50m)で割ると」や「電力会社の公開データと比較する」方法が使えます。また「日本の道路延長は約127万kmなので、両側に電柱があれば1km当たり40本×127万km=5,080万本——近いオーダー」と確認できます。答えを鵜呑みにせず複数視点で検証する習慣がサニティチェックの本質です。
フェルミ推定は「答え」ではなく「プロセス」を見せる問題です。以下のテンプレートに沿って話すと、面接官に思考が伝わりやすくなります。
①まず問いを確認する
「全国の稼働台数、という理解でよろしいでしょうか?」と確認。前提を合わせることで評価が上がります。
②アプローチを宣言する
「需要側から攻めます。乗客数を推計し、1台の処理能力で割る方法です」と構造を先に示す。
③前提を声に出す
「日本の人口を1.2億人と置きます」「タクシーを月1回以上使う人を成人の20%と仮定します」——数字を置くたびに理由を添える。
④計算はシンプルに
暗算しやすい数に丸める。「1.27億→1.2億」「2.4倍→2倍」。複雑な計算より、正確な論理構造の方が評価される。
⑤答えを出してサニティチェック
「約9万台という結果です。コンビニが5.7万店なので、それより少し多い程度。直感的に合理的と考えます」と締める。
最重要ポイント
| よくない例 | よい例 |
|---|---|
| 「えーと…(5秒沈黙)9万台です」 | 「需要側から攻めます。まず成人人口1億人、そのうちタクシーを月1回以上使う人を20%と置くと…」 |
| 「日本の人口って何億でしたっけ」 | 「日本の人口を1.2億と置きます。これは実際に近い数字です」 |
| 「答えは9万台です(終わり)」 | 「9万台という結果です。コンビニの店舗数が5.7万店なのでそれより少し多い程度、感覚的に妥当です」 |
| 「前提が違ったら全部ずれます」 | 「前提を変えても桁は変わらないので、オーダー感としては正しいと考えます」 |
練習問題
練習:「東京ディズニーランドの1日の来場者数を推計してください」を声に出して答えてみましょう。
考え方のヒント
面接での伝え方を練習する問いです。①「年間来場者数を日数で割るアプローチです」とアプローチを宣言し、②「年間約3,000万人(有名テーマパークの公開情報から)÷365日≒約8万人/日」と前提を声に出しながら計算し、③「繁忙期は15万人以上、閑散期は5万人以下なので平均8万人は妥当」とサニティチェックで締めます。Think aloudで話す練習を重ねましょう。