CasePrep
MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)とは「モレなく、ダブりなく」を意味する、コンサルタントの思考の基本原則です。マッキンゼーが広めたこのコンセプトは、複雑な問題を整理するための「知的な道具箱の整理術」です。
引き出しで考えてみよう
部屋の服を整理するとき、「Tシャツ」「ズボン」「下着」「アウター」という引き出しに分けると完璧です。
モレ(漏れ)があると:靴下の引き出しがなくて、床に散らばる。
ダブり(重複)があると:「Tシャツ」と「夏服」の両方の引き出しに同じシャツが入る。
MECEとは、どの服も1つの引き出しにぴったり収まる状態のことです。
ビジネスで使うと:売上低下の原因を「価格」「数量」「顧客数」「購買頻度」に分解したとき、これらが重なっていないか(ダブり)、他に抜け落ちている要因はないか(モレ)をチェックする習慣がMECEです。
練習問題
「顧客をMECEに分類してください」と言われました。「若者・中年・高齢者」という分類はMECEですか?
考え方のヒント
年齢での分類はMECEの条件を満たせます。「若者(〜29歳)・中年(30〜59歳)・高齢者(60歳〜)」と境界を明確にすれば、モレなく(全年齢をカバー)ダブりなく(各人が1つの区分にのみ属す)なります。重要なのは「境界を明確にすること」です。「若者・中年・お年寄り」では境界が曖昧でMECEとは言えません。
モレ(漏れ)が起きると
原因の一部を見落とすため、対策を打っても問題が解決しない。「価格と品質を改善したのに売上が回復しない…実は配送の遅さが原因だった」という事態になります。
ダブり(重複)が起きると
同じ要因を二重にカウントするため、インパクトを過大評価してしまう。「顧客数」と「新規顧客数+既存顧客数」を別々に数えると、同じ人を2回カウントします。
サッカーで例えると
守備の担当エリアを決めるとき、モレがあると「誰もマークしていない選手」が生まれます。ダブりがあると2人が同じ選手を追いかけ、別の選手がフリーになります。MECEなエリア分けで穴のない守備ができます。
練習問題
ある店の「昨日の売上が落ちた原因」を分析します。原因候補として「天気が悪かった」「競合がセールをやっていた」「自店が値上げした」「スタッフが少なかった」を挙げました。これはMECEですか?
考え方のヒント
この列挙はMECEではありません。「天気」と「スタッフ不足」は独立した要因ですがダブりはないものの、「売上 = 客数 × 客単価」という式でまず2軸に分けてから原因を探す方がMECEです。MECEでない列挙では重要な要因(例えばチラシ配布の中止)を見落とすリスクがあります。まず構造で分け、そこに原因を当てはめる順番が正しいアプローチです。
MECEを実際に使う道具がロジックツリー(Logic Tree)です。問いの種類によって、2種類のツリーを使い分けます。
Whyツリー(原因分析)
問い:なぜ売上が下がったのか?
原因を掘り下げる。現状の問題を診断するときに使う。
Howツリー(施策立案)
問い:どうすれば売上を上げられるか?
解決策を展開する。打ち手を考えるときに使う。
使い分けのルール
練習問題
「ECサイトの会員数が伸び悩んでいる」という課題に対し、WhyツリーとHowツリーをそれぞれ描いてみてください。
考え方のヒント
Whyツリーでは「なぜ会員数が伸びていないか」を分析します。会員数増加=新規登録数-退会数に分解し、新規が少ないなら「認知不足か登録障壁か」をさらに掘り下げます。原因が特定できたら今度はHowツリーで「どうすれば新規登録を増やせるか」という施策を展開します。Whyで診断し、Howで処方するという2段階の思考フローが典型的なコンサルの問題解決プロセスです。
コンビニチェーンの売上が前年比10%減少しています。Whyツリーで原因を分解してみましょう。
分析のポイント
練習問題
コンビニチェーンの来客数が前年比15%減少しています。Whyツリーで原因を2層まで分解してください。
考え方のヒント
まず「来客数 = 新規客数 + リピート客数」に分解(第1層)します。新規客が減った場合は「認知度低下」「立地的な障害」「競合店への流出」に分解(第2層)、リピート客が減った場合は「来店頻度の低下」「退会・引越し」に分解します。数学的に成立する式(新規+リピート)で第1層を決めることでMECEが担保され、第2層以降の分析が的確になります。
MECEな分解を毎回ゼロから考えるのは非効率です。以下の「定番の切り口」を引き出しとして持っておくと、面接でも実務でも素早く使えます。
| 切り口 | 分解の例 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 売上 = 単価 × 数量 | 単価:定価・値引き率 / 数量:客数・購買頻度・1回購入量 | 収益分析・価格戦略すべて |
| 顧客セグメント | 新規顧客 vs 既存顧客 / BtoB vs BtoC / 年齢層別 | 顧客分析・マーケティング |
| 地理的分解 | 国内 vs 海外 / 都市 vs 地方 / 東日本 vs 西日本 | 事業展開・地域戦略 |
| 時間軸 | 短期(〜1年) vs 中期(1〜3年) vs 長期(3年〜) | 施策ロードマップ |
| 固定費 vs 変動費 | コストを性質で分類 | コスト構造分析 |
| バリューチェーン | 調達→製造→物流→販売→サービス | 業務プロセス分析 |
| 4P | Product・Price・Place・Promotion | マーケティング施策 |
| 人・モノ・金・情報 | 経営資源の全体像 | 組織・事業戦略 |
引き出しを持つ意味
練習問題
「スマホアプリの月間アクティブユーザー(MAU)を増やす施策」をMECEな切り口で整理してください。
考え方のヒント
MAU=当月に利用したユニークユーザー数なので「新規ユーザーの獲得」と「既存ユーザーの継続利用」に二分するのが最もMECEな出発点です。新規獲得はさらに「認知拡大」「コンバージョン改善」に、継続はさらに「利用頻度向上」「退会防止」に展開できます。このように定義式から出発することで、施策の抜け漏れを防ぎ、リソース配分の優先順位が明確になります。
MECEでない分解(NG)
「売上減少の原因は?」
「競合台頭」と「顧客ニーズの変化」は重なる可能性あり。「景気悪化」が影響するなら顧客ニーズにも影響する。ダブりだらけで分析できない。
MECEな分解(OK)
「売上 = 単価 × 数量」で分解
数学的に「売上 = 単価 × 数量」は完全に成立。さらに数量を客数×頻度×点数に分解。ダブりなく、モレなし。
練習問題
「日本の世帯をMECEに分類する」場合、どのような切り口が考えられますか?それぞれのメリットを考えてください。
考え方のヒント
世帯人数(1人・2人・3人以上)、年収帯(低所得・中所得・高所得)、居住形態(持ち家・賃貸)などの切り口があります。重要なのは、選んだ切り口が「分析の目的」に合っているかです。マーケティング目的なら購買力で分ける年収帯、住宅政策なら居住形態が適切です。MECEかどうかだけでなく「その分け方が問いに対して意味があるか」も常に確認する習慣をつけましょう。
MECEは読んで理解するより、実際に手を動かして練習することで身につきます。以下の問題でMECEな分解を考えてみてください。
| 練習問題 | 考え方のヒント | 定番の切り口 |
|---|---|---|
| ある飲食チェーンの利益が下がっている。原因を分解せよ | 利益 = 売上 - コスト。まずこの2軸に分ける。売上はさらに単価×数量に | 利益の式分解 |
| 日本の人口が減少している。要因をMECEに列挙せよ | 人口変化 = 自然増減(出生数 - 死亡数)+ 社会増減(流入 - 流出)。数学的に成立 | 人口動態の定義 |
| スマホアプリのDAUが下がった。原因は? | DAU = 新規インストール数 × 継続率。新規と既存を分ける。既存は利用頻度の低下 | ファネルとコホート |
| コスト削減施策をMECEに列挙せよ | コスト = 固定費 + 変動費。固定費はさらに人件費・家賃・設備費に分解 | 費用の性質による分類 |
| 新規市場への参入方法をMECEに考えよ | ①自社単独 ②M&A ③提携・JV。入り方の手段で分ける | 市場参入形態の分類 |
練習のコツ
自分の分解案を書いたら、必ずこの2つを確認してください。
最初は数学的に成立する分解(利益の公式、人口動態の定義)から練習するのが最も確実です。
上級者の視点
練習問題
「旅行会社の収益改善策を考えてください」と言われました。Howツリーを使ってMECEに施策を整理してみましょう。
考え方のヒント
まず「収益 = 売上 − コスト」という式でHowツリーの第1層を作ります。売上側は「客数を増やす」「客単価を上げる」に分け、さらに客数は「新規顧客獲得」「リピート率向上」に展開します。コスト側は「固定費削減(人件費・オフィス)」「変動費削減(仕入れ・外注費)」に分けます。自分の分解が終わったら、「他に見落としはないか」とMECEチェックをする習慣が本番での完成度を高めます。