CasePrep
ビジネスのゴールは「利益を生み出すこと」です。コンサルタントが最初に確認するのは、この最もシンプルな方程式です。どんな複雑なビジネスでも、最終的にはここに戻ってきます。
ピザ屋で考えてみよう
ピザ屋さんが1日10枚のピザを1枚1,000円で売ると、売上は10,000円。材料費・光熱費・バイト代で合計8,000円かかると、利益は2,000円。この構造を複雑なビジネスに当てはめるのがコンサルの仕事です。
利益を増やすには3通りしかありません。①売上を増やす、②コストを減らす、③その両方。シンプルに見えますが、「どの売上をどう増やすか」「どのコストをどう減らすか」を正確に分解することが分析の核心です。
練習問題
ある飲食店の月次利益が50万円です。売上750万円、コスト700万円とわかっています。利益率は何%ですか?また利益を100万円にするには売上かコストをどう変えればよいですか?
考え方のヒント
利益率は50万÷750万≒6.7%です。利益を100万円にするには「売上を750万→800万円(約7%増)」か「コストを700万→650万円(約7%削減)」か両方の中間策が必要です。利益 = 売上 − コスト という基本式から考えると、どちらのレバーをどれだけ動かすかが具体的に見えてきます。まず式に戻ることが分析の出発点です。
売上を増やしたいとき、まず「何が売上を決めているか」を分解します。これが売上分解(Revenue Decomposition)の第一歩です。
学校のバザーで考えてみよう
クラスのバザーで100枚のクッキーを1枚50円で売ると、売上は5,000円。売上を10,000円にするには「1枚100円に値上げ(単価↑)」か「200枚作る(数量↑)」か「両方少しずつ」しかない。
単価を上げる方法
数量を増やす方法
練習問題
あるスポーツジムの売上が前年比10%減少しています。「売上 = 単価 × 数量」の式を使って、どちらが問題かを特定するための質問を2つ挙げてください。
考え方のヒント
単価側を確認するには「会費の価格変更はあったか、割引キャンペーンの頻度は変わったか」を聞きます。数量側を確認するには「会員数の推移と退会率のデータを教えてください」と聞きます。単価と数量を分けて問うことで、問題がどちらにあるか(価格設定の問題か集客の問題か)を素早く特定できます。仮説を持って質問することが分析の効率を大きく高めます。
「数量」はさらに分解できます。「誰が、何回、何個買うか」という3つの要素に分けると、打ち手が明確になります。
| 分解要素 | 意味 | 改善の打ち手の例 |
|---|---|---|
| 顧客数(新規) | 初めて買ってくれた人の数 | 広告・SNS・紹介プログラムで認知拡大 |
| 顧客数(既存) | リピートしてくれる人の数 | 会員プログラム・パーソナライズで離反防止 |
| 購買頻度 | 1人が年間に何回買うか | メルマガ・プッシュ通知・定期購入プランの導入 |
| 1回あたり購入点数 | 1回の買い物で何個買うか | レコメンド・クロスセル・バンドル・セット割引 |
| 定価 | 商品の公式値段 | バリューベースプライシング・競合比較 |
| 値引き率 | 割引・クーポンの大きさ | 値引き頻度・条件の最適化 |
| 商品ミックス | 高単価 vs 低単価の比率 | 高単価ラインを推奨する棚配置・接客設計 |
練習問題
書籍ECサイトの月間売上が1,000万円です。顧客数2,000人、1人あたり購買頻度2.5回/月、1回あたり購入冊数1冊、1冊の平均単価2,000円の場合、数字を確認してください。また「売上を1,200万円にする」にはどの要素をどれだけ改善すればよいですか?
考え方のヒント
2,000人×2.5回×1冊×2,000円=1,000万円で整合します。売上を1.2倍にするには、例えば「顧客数を2,400人に増やす(+20%)」か「購買頻度を3回/月に増やす(+20%)」か「平均単価を2,400円に上げる(+20%)」の組み合わせが選択肢です。このように式の各要素が「施策の打ち手」と直結しているため、深掘りの分解が具体的なアクションにつながります。
コストには2種類あります。売れても売れなくても同じだけかかる固定費(Fixed Cost)と、売れるほど増える変動費(Variable Cost)です。この区別がコスト分析の第一歩です。
固定費(Fixed Cost)
売上に関係なく発生するコスト。ゼロ個売っても同じだけかかる。
変動費(Variable Cost)
売上・生産量に比例して増えるコスト。売れるほど増える。
アパートで例えると
アパートを借りている人にとって、家賃は固定費(住もうと住まいと払う)、食費は変動費(食べた分だけかかる)。節約するなら、固定費(部屋を安い所に引っ越す)を下げるのが一番効果的。変動費は1つ1つ地道に節約するしかない。
限界利益とは
練習問題
ある工場の月次コスト:家賃200万円、設備リース100万円、原材料費300万円(売上の30%)、パート人件費150万円(生産量に比例)、売上1,000万円。固定費と変動費を分類し、限界利益率を計算してください。
考え方のヒント
固定費は家賃200万+設備リース100万=300万円です。変動費は原材料300万+パート人件費150万=450万円(売上比45%)です。限界利益=売上1,000万−変動費450万=550万円、限界利益率55%です。固定費300万を差し引くと営業利益250万円(利益率25%)となります。このように固定費と変動費を区別することで、売上が変動したときの利益への影響を予測できます。
利益 = 売上 − 固定費 − 変動費 という式から、利益を改善するレバーは3つです。どのレバーを引くかは、ビジネスの状況と制約条件で決まります。
レバー①:売上を増やす(Revenue Growth)
単価を上げるか数量を増やす。最も根本的な解決策だが、実行に時間がかかる。競合状況・顧客ニーズ・マーケット規模が制約になる。
レバー②:固定費を下げる(Fixed Cost Reduction)
家賃交渉・人員削減・システム統廃合など。一度下げれば恒久的に効く。ただし実行が難しく、組織への影響が大きい。
レバー③:変動費率を下げる(Variable Cost Ratio Reduction)
原材料の仕入れ価格を下げる・製造効率を上げる・物流コストを最適化する。売上が増えるほど効果が拡大する(乗数効果)。
| レバー | 短期効果 | 長期効果 | リスク | 典型的な施策 |
|---|---|---|---|---|
| 売上↑ | 中〜大 | 大 | 中(競合反応) | 値上げ・新顧客獲得・新商品 |
| 固定費↓ | 大(即効) | 中 | 高(組織・ブランド) | リストラ・拠点統廃合 |
| 変動費率↓ | 小 | 大 | 低〜中 | 調達交渉・製造改善 |
練習問題
クライアントから「売上は変わらないのに利益が半分に減った」と相談されました。3つのレバーのどれが問題かを特定するために、どのような質問をしますか?
考え方のヒント
まず「売上は変わらない」が確認できているので、コスト側が問題です。固定費レバーを確認するには「家賃・人件費などの固定費に変化はありましたか?」と聞き、変動費率レバーを確認するには「原材料費や物流費の対売上比率はどう変わりましたか?」と聞きます。どちらが増加しているかで、打つべき施策が固定費削減か変動費率改善かに絞り込まれます。
「全体の売上は横ばい」というデータだけでは、何をすべきかわかりません。セグメントに分けることで、成長している部分と衰退している部分が見えてきます。
平均の罠
クラスの平均点が60点でも、「90点の優秀な生徒」と「30点で苦しんでいる生徒」が混ざっている可能性があります。「平均60点なので補習は不要」と判断するのは危険。ビジネスも同じで、「平均成長率3%」の裏に「EC事業は+30%、店舗事業は-20%」が隠れているかもしれません。
セグメント分析(Segment Analysis)とは、全体をMECEな塊に分けて「どのセグメントが問題か」「どのセグメントに機会があるか」を特定する手法です。
| セグメントの切り口 | 具体例 | わかること |
|---|---|---|
| 商品カテゴリ別 | A商品:+20% / B商品:-15% | どの商品が牽引しているか、どこが問題か |
| 顧客タイプ別 | 新規客:-30% / 既存客:+10% | 獲得力 vs 維持力のどちらが問題か |
| 地域別 | 都市部:+5% / 地方:-25% | 地域固有の要因(競合出店・人口減)の把握 |
| チャネル別 | EC:+40% / 実店舗:-10% | チャネルシフトの実態把握 |
| 顧客規模別 | 大企業:+15% / 中小:-20% | どの顧客層に注力すべきか |
| 購買頻度別 | ヘビーユーザー:安定 / ライトユーザー:離反 | 離反の実態と優先顧客層の特定 |
練習問題
ある食品メーカーの全体売上は前年比+2%と横ばいです。しかし社長は「成長していない」と危機感を持っています。セグメント分析で何を確認すべきですか?
考え方のヒント
全体の+2%の裏に「成長しているセグメントと縮小しているセグメント」が混在している可能性があります。まず製品カテゴリ別(主力商品Aは+15%、旧来商品Bは-20%など)と販売チャネル別(EC+30%、卸-5%など)に分解します。「成長している部分は何か、衰退している部分は何か」を特定することで、注力すべき打ち手が明確になります。平均値の裏にある分布こそが実態です。
モデルケースとして、一般的なコンビニエンスストア1店舗の月次利益構造を見てみましょう。数字は概算ベースです。
| 項目 | 金額(月次) | 売上比率 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 売上 | 1,200万円 | 100% | 日商40万円 × 30日 |
| 変動費(原価) | △720万円 | 60% | 仕入れコスト(平均原価率60%) |
| 限界利益 | 480万円 | 40% | 売上 − 原価。固定費を回収するための原資 |
| 人件費(固定) | △180万円 | 15% | 店長 + パート代(月150〜200時間相当) |
| 家賃・ロイヤリティ | △150万円 | 12.5% | 家賃80万 + FC本部へのロイヤリティ70万 |
| 光熱費・消耗品 | △60万円 | 5% | 冷蔵ケース・深夜電力が高い |
| 廃棄ロス | △36万円 | 3% | 弁当・惣菜の廃棄(売上の3%が業界平均) |
| その他固定費 | △24万円 | 2% | システム・清掃・広告分担金 |
| 営業利益 | 30万円 | 2.5% | オーナーの手残り(投資・労働報酬前) |
コンビニの利益構造から学ぶこと
練習問題
コンビニの廃棄ロスを「売上の3%→1%」に削減できたとします。営業利益はどう変わりますか?この改善の難しさは何ですか?
考え方のヒント
廃棄ロスが売上1,200万円の2%(24万円)削減されると、営業利益は30万→54万円と1.8倍になります。これが廃棄削減が最も高ROIの施策である理由です。ただし難しさは「廃棄を減らすために発注を絞ると品切れが起き、客数が減る」というトレードオフにあります。売上・廃棄ロス・客数という複数のKPIを同時に管理する必要があり、単純な削減策では逆効果になるリスクを理解することが重要です。
「高単価商品の売上が増えたのに、なぜか利益が出ない」——コンサル面接でもよく登場するこのパラドックスの正体がミックス効果(Mix Effect)です。
ミックス効果とは
| 商品 | 単価 | 原価率 | 利益率 | 昨年シェア | 今年シェア |
|---|---|---|---|---|---|
| A商品(プレミアム) | 3,000円 | 70% | 30% | 20% | 50% |
| B商品(スタンダード) | 1,000円 | 40% | 60% | 80% | 50% |
| 加重平均利益率 | — | — | 昨年:54% → 今年:45% | — | — |
何が起きているか
プレミアム商品の単価は3倍なのに、利益率は30%とスタンダード商品(60%)の半分です。プレミアム商品のシェアが増えると、全体の利益率は下がります。
このため「売上前年比120%!」というニュースを聞いたら、コンサルタントは「でも利益は?」「どの商品が増えた?」と聞きます。売上の成長が必ずしも利益の成長を意味しないことを知っているからです。
面接での活用
練習問題
ある会社の今年の売上が前年比+20%増加しました。しかし営業利益率は8%から5%に低下しています。ミックス効果の観点から、何が起きた可能性がありますか?
考え方のヒント
ミックス効果が疑われます。売上が増えた商品・チャネル・顧客セグメントの利益率が、全体平均より低かった可能性があります。例えば「売上規模は大きいが利益率の低い法人向け大口取引が急増した」「利益率の低い特売・バンドル商品の販売比率が上がった」といったケースです。まず「どのセグメントの売上が増えたか」「その利益率は全社平均より高いか低いか」を確認することが分析の第一歩です。