CasePrep
市場規模推計(Market Sizing)とは「この市場は年間いくら規模か」を計算することです。新規事業を検討するとき、投資の判断をするとき、競合の戦略を読むとき——市場の大きさを知ることはすべてのビジネス判断の出発点になります。
ピザ屋で例えると
Total Addressable Market(全体市場規模)
「その製品・サービスを全員が使ったら」という理論上の最大値。日本のスマホユーザー全員がアプリを使う、など。
Serviceable Available Market(実際に狙える市場)
地域・年齢・ニーズなどで絞り込んだ「実際にターゲットになりうる市場」。
Serviceable Obtainable Market(獲得可能な市場)
競合との競争を踏まえた「現実的に取れる市場シェア」。事業計画の根拠になる数字。
練習問題
「日本の宅配デリバリー市場(TAM)を推計してください。あなたのサービスが狙えるSAMとSOMも考えてください。」
考え方のヒント
TAMは「日本の成人1億人×月1回デリバリー利用率30%×1回平均2,000円×12ヶ月≒7,200億円」と推計します。SAMは「スマホアプリ経由のデリバリーを使う都市部の20〜40代」に絞るとTAMの40%≒2,900億円程度です。SOMは競合(Uber Eats・出前館等)が既にいる中で3年以内に2〜3%のシェアを狙うとすると約60〜90億円です。TAM→SAM→SOMと段階的に絞り込むことで、事業計画の現実的な市場規模が見えます。
市場規模を推計する方法は大きく2種類あります。問いの性質・手元にある情報によって使い分けましょう。両方できると答えを相互検証できるので、より説得力が増します。
トップダウン法
大きい数字(人口・GDP)から出発して、絞り込んでいく方法。
速い・シンプル。統計データと合わせやすい。
ボトムアップ法
個別の単位(店舗・企業・個人)から積み上げる方法。
精度が高い・業界理解が深まる。時間がかかる。
両方使って相互検証
練習問題
「日本のペット保険市場」をトップダウン法とボトムアップ法の両方で推計してみてください。
考え方のヒント
トップダウン:日本の世帯数5,500万×ペット飼育率約30%=1,650万世帯×ペット保険加入率約10%=165万件×年間保険料3万円≒約500億円。ボトムアップ:大手ペット保険会社の推計契約件数(業界最大手が約100万件、業界全体で150〜200万件)×平均年間保険料3万円≒450〜600億円。両アプローチが約500億円で一致しており、信頼性が高い推計と言えます。このように相互検証することで答えに根拠が生まれます。
TAM・SAM・SOMは「入れ子構造(同心円)」で表すと直感的にわかります。外側が大きく、内側に向かうにつれて現実的な数字になります。
| 指標 | 意味 | 使う場面 | 計算例(フィットネスアプリ) |
|---|---|---|---|
| TAM | 全体市場の理論上の最大値 | 業界の魅力度を示すとき | 日本のスマホユーザー全員 × アプリ利用率 ≒ 8,000億円 |
| SAM | 実際に狙えるターゲット市場 | 事業戦略の対象範囲を示すとき | 健康意識が高い20〜50代 × 有料課金率 ≒ 1,200億円 |
| SOM | 現実的に獲得できるシェア | 事業計画・投資判断に使うとき | SAMの5%シェアを3年で獲得 ≒ 60億円 |
練習問題
新しいフィットネスアプリを開発中です。投資家向けのピッチで「この市場は8,000億円のTAMがある」と言うだけでは不十分です。何を追加すべきですか?
考え方のヒント
投資家はTAMより「自社が実際に取れる市場(SOM)」を重視します。SAM(健康意識の高い20〜50代のスマホユーザー≒1,200億円)とSOM(3年以内に5%シェア獲得≒60億円)まで絞り込み、「なぜ5%取れるか」という競合優位の説明が必要です。TAMの大きさだけを語るのは「宣伝」ですが、SAM→SOM→獲得根拠まで説明できると「戦略的思考がある創業者」と評価されます。
STEP 1:問いを定義する
「日本の〇〇市場」とは何を指すか?BtoC/BtoB?金額ベース/数量ベース?年間/月間?地域の範囲は?定義が曖昧なまま計算すると答えがずれる。
STEP 2:アプローチを選ぶ
トップダウン(人口・GDP起点)かボトムアップ(供給側・店舗起点)かを宣言する。可能なら両方使って答えを挟み撃ちにする。
STEP 3:分解式を設計する
「市場規模 = A × B × C」という掛け算の式を設計する。変数は3〜5個に絞る。複雑すぎると計算ミスが増える。
STEP 4:各変数に数字を入れる
前提として置く数字ごとに根拠を添える。「日本の人口を1.2億と置きます」「スポーツジムに通う割合を成人の10%と仮定します」など声に出す。
STEP 5:計算して答えを出す
掛け算・割り算を積み上げて最終数字を出す。桁を確認する(億円?兆円?)。暗算しやすいよう数字を丸める。
STEP 6:サニティチェック
「この数字は現実的か?」を確認する。知っている事実(業界レポートの数字・競合の売上)と比較して大きくズレないか?
練習問題
「日本のカフェ市場の規模を推計してください」と言われました。STEP 1〜3(問いの定義・アプローチ選択・分解式設計)をどのように行いますか?
考え方のヒント
STEP 1:「カフェ市場」をコーヒーチェーンや個人カフェの年間売上合計と定義し、BtoCの金額ベース・年間と確認します。STEP 2:需要側(人口×利用率×消費額)のトップダウン法と供給側(店舗数×1店舗年間売上)のボトムアップ法を両方使います。STEP 3:分解式は「成人人口×週1回以上カフェ利用率×週あたり平均消費額×52週」とします。この3ステップを先に声に出して宣言することで、計算前に思考の構造を面接官と共有できます。
トップダウン法で、日本のフィットネスジム(スポーツジム)市場の年間規模を推計してみましょう。
| ステップ | 変数 | 前提・根拠 | 数値 |
|---|---|---|---|
| ① | 日本の成人人口(18歳以上) | 総人口1.2億人のうち約85% | 約1億人 |
| ② | ジム会員率 | 「運動習慣のある人」は成人の30%、そのうちジムを使う人を1/3と仮定 | 約10%(1,000万人) |
| ③ | 年間会費(1人あたり) | 月会費8,000円(都市部10,000円・地方6,000円の中間)× 12ヶ月 | 約96,000円 ≒ 10万円 |
| ④ | 市場規模(計算) | 1,000万人 × 10万円 | 約1兆円 |
| ⑤ | サニティチェック | 業界団体データ(フィットネス産業規模は約5,000億〜1兆円) | 概ね合致 |
精度を上げるには
練習問題
フィットネスジム市場の推計で「1,000万人×10万円=1兆円」という答えが出ました。この推計をサニティチェックしてください。
考え方のヒント
まず「ジム会員1,000万人」が成人1億人の10%である合理性を確認します。運動習慣がある成人が約30%で、そのうちジムを使う人が1/3という前提で10%は合理的です。「年間10万円(月8,000円)」は業界の一般的な月会費の中間値として妥当です。実際の業界規模は約5,000億〜1兆円とされており、この推計はオーダー感として正しいと判断できます。サニティチェックでは「前提の合理性」と「既知データとの比較」の両方を行います。
今度はボトムアップ法で、日本のフィットネス系スマホアプリ市場の年間規模を推計します。供給側(アプリの数と収益)から積み上げるアプローチです。
| ステップ | 変数 | 前提・根拠 | 数値 |
|---|---|---|---|
| ① | 日本のスマホユーザー数 | 人口1.2億 × スマホ普及率85% | 約1億人 |
| ② | 健康・フィットネスアプリ利用率 | アプリストアの健康カテゴリDL数から。利用者は成人の約20%と仮定 | 約2,000万人 |
| ③ | 有料課金率 | 無料→有料転換は通常2〜5%。3%と仮定 | 約60万人 |
| ④ | 年間課金額(1人あたり) | サブスク月1,200円 × 12ヶ月 | 約14,400円 ≒ 1.5万円 |
| ⑤ | 市場規模(計算) | 60万人 × 1.5万円 | 約90億円 |
| ⑥ | 広告収益を加算 | 無料ユーザー1,940万人 × 広告ARPU年500円 | 約97億円 |
| ⑦ | 合計推計値 | 課金 + 広告 | 約180〜200億円 |
2つのアプローチで挟み撃ち
練習問題
フィットネスアプリ市場をボトムアップ法で推計したとき、なぜ「広告収益」を追加で計算しましたか?この考え方を他のアプリ市場に応用するとどうなりますか?
考え方のヒント
アプリビジネスの収益モデルが「課金収益+広告収益」という2つの柱で成り立っているためです。課金ユーザーだけを計算すると市場を過小評価します。例えばニュースアプリ市場も「プレミアム課金収益+広告収益」に分けて計算する必要があります。このようにビジネスモデルの構造を理解した上で分解式を設計することで、推計の精度と説得力が上がります。「なぜその分解式を選んだか」を説明できることが面接での評価ポイントです。
市場規模推計に頻繁に登場する「基準数字」を頭に入れておきましょう。丸めた数字で構いません。
| カテゴリ | 項目 | 数値 | 使い方のヒント |
|---|---|---|---|
| 人口 | 日本の総人口 | 約1.2億人 | 計算では「1億」か「1.2億」で |
| 人口 | 東京都人口 | 約1,400万人 | 首都圏(1都3県)は約3,600万人 |
| 人口 | 成人人口(18歳以上) | 約1億人 | 総人口の約85% |
| 人口 | 世帯数(全国) | 約5,500万世帯 | 1世帯あたり約2.2人 |
| 経済 | 平均年収(給与所得者) | 約460万円 | 中央値は約400万円 |
| 経済 | 日本のGDP | 約550兆円 | 1人あたり約460万円 |
| 経済 | 消費支出(1世帯/月) | 約28万円 | 独身世帯は約16万円 |
| 企業 | 国内企業数(法人) | 約370万社 | うち中小企業が99.7% |
| 企業 | 上場企業数 | 約3,900社(東証) | 大企業ケースで使う |
| デジタル | スマホ普及率 | 約85% | 1億人がスマホを持つ計算 |
| デジタル | EC購入率(成人) | 約55% | コロナ後に急増 |
| インフラ | 日本の世帯数(うち持ち家) | 約3,300万世帯 | 持ち家率60% |
練習問題
「日本の介護市場の規模を推計してください」という問いを解く際、どの基準数字を使いますか?
考え方のヒント
まず日本の高齢者(65歳以上)の人口を確認します。総人口1.2億人×高齢化率約30%=約3,600万人が出発点です。このうち要介護認定を受けている人が約700万人(高齢者の約20%)で、1人あたり年間介護費用(公的サービス+自己負担)が約120万円と仮定すると、約8.4兆円になります。「高齢者人口の割合」「要介護認定率」という基準数字を知っていると、介護・医療関連の市場推計が素早くできます。
市場規模の「今の数字」だけでなく「これからどう変わるか」を読むことで、投資・参入の判断が変わります。成長率と市場トレンドを合わせて語れると、提言の説得力が大きく増します。
成長率の目安(年率)
トレンドを読む視点
面接での使い方
成長市場でも儲からない落とし穴
練習問題
「日本のEV(電気自動車)市場は今後どう成長しますか?」と問われました。成長率とトレンドを使って答えの骨格を作ってください。
考え方のヒント
現在のEV普及率は国内乗用車販売の約3〜4%(2024年)です。政府の2035年ガソリン車新車販売禁止方針・欧米の規制強化・充電インフラ整備の加速というトレンドから、年率20〜30%程度の高成長が見込まれます。5〜7年後には市場の15〜25%シェアに達する可能性があります。ただし「成長市場でも儲からない落とし穴」として、テスラ・トヨタ・現代など既存大手と中国勢の競争激化で利益率の低下リスクも同時に言及することで、分析の深さが伝わります。